ヒートポンプはなぜ使った電気より多くの熱を出せるのか?
ヒートポンプは、電気を1単位使うごとに約3単位の熱を家の中に送り込めます。何もないところから熱を生んでいるように聞こえますが、そうではありません。足りないエネルギーは外の空気から来ています。その空気が氷点下でも同じです。
この動画では、冷媒が室外コイル、圧縮機、室内コイル、膨張弁を一周する流れを追い、その比率に物理的な上限がある理由、寒い日の実測で何がわかったか、そしてヒートポンプで暖房費が下がるかどうかを決める4つの条件を見ていきます。
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無から熱?
この箱は無から熱を生むように見えます。電気を1単位入れると、反対側から約3単位の熱が出ます。でも何かが生まれるわけではありません。足りないエネルギーは、すぐ外の冷たい空気の中にあります。4つの部品を巡る流体を一周追えば、余分な熱の謎は解けます。
熱を作る暖房器
まず、身近な暖房器具を見ましょう。電気ヒーターは抵抗線に電流を流し、抵抗線がその電気エネルギーを熱に変えます。1単位入れれば熱も1単位、抵抗線だけではそれ以上は無理です。ガスボイラーは代わりに燃料を燃やし、出す熱は燃料のエネルギーを超えません。
どちらも熱を作ります。ヒートポンプは主に、すでにある熱を運びます。
冷たい空気にも熱はある
絶対零度より温かいものは、すべて熱エネルギーを持ちます。絶対零度は摂氏で約マイナス273度です。手がかじかむ0度の空気も、絶対零度よりはるかに高温です。問題は、熱が自然には温かい方から冷たい方へしか流れないことです。
冷たい外気から暖かい部屋へ熱を運ぶには、坂を上るように熱を押し上げる力が必要です。電気は、その押し上げに使われます。
氷点下で沸騰する液体
ヒートポンプ内の作動流体を冷媒と呼びます。冷媒には、水が凍る温度より低い温度で沸騰する物質を選びます。よく使われる冷媒アール32は、大気圧で約マイナス52度で沸騰します。沸騰中は熱を吸収します。沸騰した湯が温度を上げずにコンロの熱を吸い続けるのと同じです。
だから室外コイルの冷媒が外気より冷たければ、沸騰して外気から熱を奪います。ファンが外気をコイルに当て、熱が届き続けるようにします。
圧縮機
いま冷媒は、捕らえた熱を運ぶ冷たい低圧の蒸気です。電気が働くのは圧縮機です。圧縮機が蒸気の体積を縮め、その仕事で蒸気の圧力と温度が上がります。圧縮機を出た蒸気は、暖める部屋より熱くなっています。
これが電気の仕事による、坂の上への押し上げです。
熱が室内へ流れ出る
熱い蒸気は室内コイルへ向かいます。部屋の空気より熱いので、熱が自然に流れ出ます。冷媒は熱を手放しながら、凝縮して液体に戻ります。ファンや水の配管が、その熱を通気口、ラジエーター、床から部屋へ届けます。
膨張弁
液体はまだ高圧なので、もう一つ関門があります。膨張弁の狭いすき間を通り、液体は低圧側へ流れます。急な減圧で冷媒はぐっと冷えます。再び冷えた冷媒は、周りの空気より冷たい状態で室外コイルへ戻ります。
そしてシステムが動く限り、この循環が続きます。
3単位はどこから来るのか
これでエネルギーの収支が合います。この例では、室内に届く熱3単位のうち1単位が、圧縮機を通った電気です。残り2単位は、冷たいコイルで外気から集めた熱です。届けた熱を電気の仕事で割った比を、成績係数、シーオーピーと呼びます。
この例のシーオーピーは3です。国際エネルギー機関によれば、家庭用ヒートポンプのシーオーピーは普通約4です。エネルギーは生まれません。電気で買うのは運搬で、運搬は作るより安いのです。
比率に上限がある理由
でもこの比率には上限があります。その上限は物理法則で決まり、熱を取り出す側と届ける側の温度によって変わります。完全な可逆ヒートポンプでは、上限は高温側の温度を温度差で割った値です。温度は絶対零度から測ります。
外が0度、室内20度という教科書の例では、理想の上限は約14.7です。外が10度に暖まると、上限はほぼ倍の約29になります。実際の効率はこの上限を大きく下回ります。熱を速く運ぶにはコイルに余分な温度差が必要で、圧縮機やファンにも損失があるからです。大事なのは式の形です。
熱を持ち上げる温度差が大きいほど、上限は下がります。
いちばん寒い日
暖房が最も必要なとき、温度差も最大です。外気が冷えるほど熱を持ち上げる幅が広がり、シーオーピーは下がります。2023年、ジュール誌の論評が約2700の測定値を集めました。欧州、北米、中国の7つの現地調査で、約550台を測った値です。
5度からマイナス10度では、平均シーオーピーは2.74でした。どの調査も、この範囲で平均2.4以上でした。寒冷地向け2機種が、フィンランドのマイナス30度で試験されました。一方はなお電気1単位あたり熱1.5から2単位、もう一方は1から1.5単位でした。
冬の負担はもう一つあります。氷点付近では室外コイルに霜がつくことがあり、霜取りに余分な電力を使います。空気熱源の多くは極寒時の補助ヒーターも備え、電気式なら最初の抵抗線と同じで、1入れて1出るだけです。
補助暖房付きの調査では、通常、外気が約マイナス10度を下回るときだけ動きました。
寒い国ではすでに頼りにしている
寒さだけでは普及は止まっていません。国際エネルギー機関によると、ノルウェーの建物の約6割にヒートポンプがあります。スウェーデンとフィンランドでは4割超です。冬の暖房が欠かせない地域です。
室内の温度も大事
温度差のもう一方は、家の中です。古い暖房の多くは、60から70度のお湯を回します。そのお湯を作るには熱をさらに持ち上げる必要があり、効率が落ちます。そのため、放熱器を大きくしたり、床暖房や断熱を加えたりすることもあります。
断熱のよい家は低い温度でも暖かさを保て、室内側から温度差を縮められます。
効率と料金は別
シーオーピーが高くても、暖房費が安いとは限りません。料金は、家に必要な熱量、季節を通したシーオーピー、そして置き換える燃料と比べた電気代で決まります。米エネルギー省の計算例です。
季節全体のシーオーピーが3のヒートポンプで、燃料の8割を熱にするガス暖房機を置き換えると、効率は3.75倍です。同じエネルギー量で電気がガスの約3.75倍より安ければ、運転費は安く済みます。電気がそれより高いと、エネルギーをずっと節約しても運転費は上がりえます。
設置費も壁です。国際エネルギー機関によれば、最安の空気対水ヒートポンプでも主要暖房市場の大半で、補助金前はガスボイラーの2から4倍です。冷媒漏れも問題です。強い温室効果ガスになる冷媒もあるからです。
それでも同機関は、今の冷媒でも、ヒートポンプは排出をガスボイラーより少なくとも2割、電気がクリーンな所では最大8割減らすと見ています。
2つの例外
外気から熱を取らないヒートポンプもあります。地中熱や水熱源のヒートポンプは、土や地下水、近くの川から熱を取ります。これらは冬、たいてい空気より暖かいのです。温度差が小さい分シーオーピーは高く、室外コイルの霜取りも要りません。難点は費用です。地中ループには深いボーリング孔か、広い埋設配管網が要ります。
同じ機械は逆にも動きます。四方弁が二つのコイルの役割を入れ替え、夏は室内コイルが熱を集め、室外コイルが放ちます。エアコンと同じです。
確かめたい4つの条件
だからこの箱は物理法則を破りません。電気1単位で、温度差を越えて熱を運ぶだけです。その1単位で運ぶ熱量は、確認できる4条件で決まります。住む所の外がどれだけ冷えるか。
室内のお湯や空気が、何度必要か。建物がどれだけ熱を保つか。電気代は、置き換える燃料と比べてどうか。温度差を縮めれば、電気1単位で室内に運べる熱が増えます。
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出典
- S1: IEA, The Future of Heat Pumps (2022) https://www.iea.org/reports/the-future-of-heat-pumps
- S2: Gibb, Rosenow, Lowes and Hewitt, "Coming in from the cold: Heat pump efficiency at low temperatures", Joule 7 (2023) https://doi.org/10.1016/j.joule.2023.08.005
- S3: Wassgren, Purdue ME 200, vapor-compression refrigeration and heat pump cycles https://engineering.purdue.edu/~wassgren/teaching/ME20000/NotesAndReading/Lec35_Reading_Wassgren.pdf
- S4: OpenStax University Physics Volume 2, 4.3 Refrigerators and Heat Pumps, and 4.5 The Carnot Cycle https://openstax.org/books/university-physics-volume-2/pages/4-3-refrigerators-and-heat-pumps
- S5: NIST Chemistry WebBook, difluoromethane (R-32) https://webbook.nist.gov/cgi/cbook.cgi?ID=C75105&Mask=4
- S6: U.S. DOE Building Science Education Solution Center, Introduction to Heat Pumps https://bsesc.energy.gov/